近視の視力
前項で近視の大多数は眼の奥行きが伸びることによって生じる軸性近視であるとの調査結果を紹介しましたが、
眼軸を短くする方法は現在のところ見つかっていませんし、根本的に近視を治す方法はありません。
ところが、世の中には「近視が治る」とか「視力は回復する」とかの方法が存在します。
確かに、ある程度の視力の回復(改善と呼んだほうが正しい)は期待出来ますが、すべての近視を「治す」わけではありませんのでご注意ください。
大きく分けて、近視に効くといわれている方法は、マッサージとトレーニングに大別されます。
以下にその各方法を検証していきます。
マッサージ
近視は眼筋の緊張によって起こるからマッサージしてやればよい、との考えです。
このマッサージによる「視力回復法」は 、器具を使ったものと、ツボや気功を使ったものとがあります。
器具を使う代表的なものに超音波マッサージ器なるものがあります。元々は偽近視治療のために医師が開発したもので、昭和40年代から50年代にかけては多くの開業医に設置されていました。ただ、通う手間など患者側の負担が大きい割に効果が乏しく、いつのまにか使われなくなってしまいました。
それ以外には磁気を使ったものや赤外線を使ったものまで出現しましたが、薬事法違反、医師法違反などの検挙が相次ぎ、姿を消していきました。
ツボや気功は、やってみると確かに気持ちのいいものです。
眉の下端の両端と真中の3点、目尻の内側の鼻柱の付近が有名です。
超音波マッサージと同じく、あくまでも偽近視と呼ばれる屈折状態の、凝り固まった毛様体をほぐす効果があるかもしれませんが、それだけです。
決して真性の屈折性近視を治す効果や眼軸の長さを変えられるわけではありません。
トレーニング
毛様体も筋肉だから鍛えることができる、ということでしょうが、残念ながらやはり偽近視と遠視、老眼以外には効果は期待できません。(遠視、老眼に関しては後で説明します。)
ただし、近視の裸眼視力自体は多少向上する効果はあります。
簡単に出来るその方法をお教えしましょう。
鉛筆を手に持ってHBとか2Bという刻印がある面を眼の高さに挙げてください。じっと見つめたまま、その刻印がぼやけるまで眼に近づけ、そして ぼやけたら、今度はゆっくりと手を伸ばして眼から遠ざけてください。その間はじっと見つめたままです。
手を伸ばした状態でも刻印がはっきりと見える程度の弱い近視の方でしたら、数メートル離れた壁にでも掛けたカレンダーの文字と、鉛筆とを交互に見つけめてください。
これを3分ほど続けてください。
次に、眼球を大きく動かす運動です。リラックスした状態で椅子に座り、
右→正面→左→正面→上→正面→下→正面、という風に、眼をゆっくりと可能な限り大きく動かしてください。
正面に戻ったときは、遠く離れたものを凝視するつもりで見つめてください。
慣れてきたら、上下左右の4方向だけでなく、間にもう一つ加えて8方向でやってみてください。
これも3分ほど続けてください。
いかがですか?なんとなく眼がクラクラする感じと視界が明るくなった感じがしませんか?
普段意識しない筋肉を強く使いますから、このストレッチによって刺激を受けたのです。
凝り固まった筋肉をある程度ほぐしますから、眼精疲労や偽近視の予防にはなると思います。
ここで、眼がどうして近くにピントを合わせることができるのかおさらいしてみましょう。
調節と呼ばれるこのピント合わせの仕組みは、
毛様体が緊張することによって厚みを増し、毛様体と水晶体を結ぶチン氏体が緩み、水晶体は自己の弾力で膨らみ屈折度を増す、というものです。
腕を曲げてグッと力を入れると、上腕に力こぶが出来ますよね、それと同じことを毛様体がやっています(正確には毛様体の中の毛様体筋)。毛様体が弛緩して厚みが薄くなると、チン氏体は水晶体をひっぱる形となり、水晶体が扁平化して屈折度を下げます。これがピント合わせの仕組みです。
毛様体筋は筋肉ですから、当然鍛えれば強く、太くなります。毛様体が太くなれば、近視を治すどころか、逆に水晶体を膨らませてしまうのです。だからやりすぎは却って良くありません。あくまでもストレッチする感覚でやってください。
そして、このトレーニングを続けるとモノを見るのが上手になります。
英語で言うところの「look」と「see」の違いと例えればよいでしょうか、
「しっかりと見つめる」と「何気なく見る」とでは明らかに視力は違ってきます。
しかし、何度もいうようですが、伸びてしまった眼軸は元に戻りません。
ちなみに、このトレーニングによる視力回復法のよりどころになっているのは、1世紀も前の眼科医が唱えた「視力は眼の周りにある外眼筋の衰えによって起こる」という仮説に基づいているようです。
まだ、眼球の正確な構造が解明されていない時代の仮説ですから、 その説は穴だらけです。根本が間違っている以上、それに基づいて作られたプログラムになんの正当性があるのでしょうか?
目に効く食べ物
ブルーベリーが目に良い、と言われています。
確かにその通り、ブルーベリーの青紫色の色素(アントシアニン)という物質は網膜に良いことが科学的に立証されています。
網膜には、ロドプシンという物質があります。このロドプシンが光の刺激を脳に伝えることで「ものが見える」と感じるのですが、この段階で、ロドプシンは一旦分解されてしまいます。やがて再成されるのですが、それまでの時間は眼の感度が落ちてしまいます。アントシアニンは、このロドブシンの再成を活発化させる働きがあります。この効果は、ブルーベリーを食べた後、約4時間後に現れ、20時間程度持続します。
朝食べれば、その日1日は効果が続くというわけですが、あくまで網膜の感度が良くなる効果があるだけで、これにも眼軸を短くして近視を治す働きはありません。
ピンホール効果
駅の売店で売られたりしていますが、小さく穴のあいたアイマスク。袋には「視力が回復する」との魅力的なキャッチコピーが書かれていたりします。本当に効果があるのでしょうか?
ピンホール効果は古くから知られています。
16世紀中ごろ、レオナルド・ダビンチがピンホールカメラを発明しました。
それ以前に、紀元前400年頃の中国で、
暗い部屋の壁に小さな穴を空けておくと、穴から差し込んだ外の光が、反対側の壁に届き、そこに景色がさかさまに写ることが発見されました。
ダビンチは大きな家ではなく、小さな箱の中でそれを実現し、西洋の人がカメラ・オブスキュラと呼んだ、現在のカメラの原型が誕生したのです。
皆さんも小学校の理科の実験で日光カメラを作りませんでしたか?それと全く同じものです。
さて、そのピンホール効果ですが、光束が細くなるとピントが少々ずれていてもはっきりと見えるということです。
カメラのピントが狂っていても、絞りを小さくすればボケは少なくなるのと同じことです。
試しに、使用中もしくは使用済みのテレホンカードを準備してください。
たくさんの小さな穴が空いていると思いますが、その穴を通して辺りを見てください。
どうですか?カレンダーの文字や時計の文字が肉眼よりもはっきりと見えませんか?
ただし、テレホンカードをどかせば元通りです。
ピンホール効果で近視が治る、というのは全くのナンセンスです。
そのピンホールを利用した眼筋トレーニングですが、これは上記の「トレーニング」と同じ目的と言えるでしょう。ただし、構造上、眼球の運動量は制限されてしまうことがありますので、ストレッチ効果と言う点では、「トレーニング」に比べて落ちることがあるかもしれません。尚、製品や、眼球の突出度によっては、アイマスクの裏地と角膜頂点までの距離が安全に保持されない場合も稀にありますので、ご使用の際はこの点によくご注意ください。
さて、このピンホール付きアイマスクの利用方法ですが、
何かの理由があって、コンタクトレンズが使えない。メガネも手元にない、といった時などには役に立つかもしれません。例えば、アレルギーや角膜の傷などでコンタクトレンズが使えない場面や、コンタクトレンズを外した後にテレビ等を見る必要がある場合などです。
遠視の視力
遠視の場合は関しては、筋肉を鍛えることによって間違いなく視力は向上します。
あるいは、過度の調節で凝り固まった毛様体の緊張を解いてやれば、一時的に視力は向上します。
遠視は、眼軸の長さに対し眼の屈折力が弱いのですから、水晶体を膨らませることによって足りない屈折を補えば視力は改善します。
しかし、これと遠視が「治る」とは別問題なのです。
屈折力の不足分を「調節」という作用で補うわけですが、本来ならば行う必要の無い調節を行うために、毛様体には大きなストレスが掛かることになるのです。
過度の調節を行うことにより「眼精疲労」が発生し、幼児では「調節性内斜視」が発症します。
いくら裸眼視力が向上するからといって、これで遠視が治ったといえますか?
老眼の視力
「老眼は治る」との主張の根拠は、「老眼は眼の筋肉が衰えることが原因だから、鍛えれば回復する」というものです。
しかし、老眼の原因は、毛様体筋の衰えで起こるのではなく、水晶体自身の弾力の低下によるものです。つまり、毛様体がどんなに頑張っても、水晶体自体が硬化してしまい調節出来ないのです。
ということで、その根拠が的外れな以上、後は何をや言わんや、ですね。
ただ、日頃からトレーニングを続けることにより、水晶体の弾力性をある程度維持できるでしょうから、トレーニング自体が無意味ということではありません。
しかしながら、眼精疲労を起こしやすい状態には変わりがありませんので、無理せずに老眼鏡を使うのが無難です。
乱視の視力
乱視には近視性の乱視と遠視性の乱視、あるいは混合乱視があります。乱視は単独ではありえません。
このうち遠視性と混合性の乱視は、前述の遠視に準ずるもので、ある程度視力が改善します。(治るわけではありません!)
乱視の原因は角膜の形状が球面でないことが主な理由ですが、目を細めたりすることによって角膜曲率が変わり、いくらか見やすくなる、ということはあります。ただし、目を大きく開ければ元に戻ります。
また、毛様体の部分的な緊張で、水晶体乱視を発生させ、角膜乱視を打ち消すこともある程度出来るようです。ただし、疲労しやすくなるのは言うまでもありません。
非常に稀にですが、偏った眼の動きを強いられる職業の方に、乱視が発生することがあります。
例えば、テニスや卓球の審判員、ベルトコンベアーで水平方向に流れる物を検査する職業など・・・
これは、眼球の動きが水平方向に偏る、あるいは垂直方向に偏ると、外眼筋(眼球運動を司る筋肉)の水平方向と垂直方向の力の均衡が崩れるのが原因のようです。
この場合は、前述のトレーニング法の後者をやっていただければ改善します。
いろいろ検証してきましたが、根本的に屈折異常を治す方法はありません。
どうしても視力を回復させたいという熱意があって、そして時間とお金があるならば、いろいろ試してみるのも良いかとは思います。少なくとも、それをやったせいで悪くなることは無いと思いますから。
しかし、「視力回復」を謳い文句にしている商法のほとんどは、医師ではなく、民間人によって運営されています。医学的に有効な治療法と認められていない(学会で無効と判定されたものも多い)現状、これらの方法は、あくまでも民間療法として行われるものであって、医師でもない者が、金品を介在させて行うのは問題があるのではないかと思います。
尚、一部で行われている、角膜放射状切開術やレーザーによる近視矯正手術は、角膜の屈折力を外科的に矯正するもので、コンタクトレンズやメガネと同じく視力矯正の手段の一つです。根本的に屈折異常を治療するものではありません。手術後に屈折度数が変化した場合はやはり視力は低下してしまいます。また、年齢によっては、遠くは見えるようになっても、逆に手元が見えにくくなり、新たに老眼鏡を使用する必要が出てきたりもします。
専門医とよくご相談の上、施術をお受けください。
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